二重課題条件下での歩行時間は転倒の予測因子となりうる
―地域在住高齢者を対象とした前向き研究―
医療系論文を理学療法士10年目の私が口語訳して紹介します。
カテゴリー
転倒予防,二重課題,歩行,転倒,地域高齢者
出典
論文を30秒にまとめると
口語訳タイトル
誰でもできる転倒予防の簡単な見分け方!!歩行からわかることとは!?
目的
歩行中の二重課題で歩くスピードがかわることは、転倒を予測することにつながるのか
対象
地域在住高齢者46名(年齢84歳前後)
方法
- 課題を与えず自由に歩く(10m)
- 引き算をしながら歩く(10m)
- それぞれの歩行時間を測定する
- 歩行測定より6ヶ月後に転倒調査
結果
- 自由歩行において、転倒群・非転倒群では歩行時間に変化がなかった
- 課題歩行において転倒群は有意に歩行時間が遅くなった
- 変化量は転倒群で有意に増大していた
著者の考え
- 転倒群は歩くこと以外に注意が向けれず、余力の少ない歩行の仕方を行っている
- 歩行を優先した姿勢の取り方ではなく、認知課題を優先した姿勢の取り方を用いている可能性がある
- 歩行時間は、転倒リスクの高い高齢者を比較的容易にスクリーニングできる評価指標である
私の考え
自由歩行において、転倒群・非転倒群では歩行時間に変化がなかった
転倒に至る原因は様々あると思うが、ある程度普段から歩行習慣があり、筋力的な衰えが少ないケースにおいては、歩いている時もそこに注意が向くことである程度の転倒は防げる可能性を意味しているんじゃないかな。
だから、転倒群においてもそれほど、大きな歩行時間の遅延は起こらなかったんだと思う。
でも、これってあくまでも何も考えず、ただ10mの歩行路を歩くだけで、日常生活では色々な障害物や周りの環境なんかにも注意が取られることがいっぱい存在する。
ひとたび、別のことをしながらになると、それに気が取られてしまい、床のものなどの障害物や、ちょっとしたふらつきに対して瞬時に対応することができなくなるんだろうな。
それが実際、次のような結果につながったんだと思う。
課題歩行において転倒群は有意に歩行時間が遅くなった
元々、人間って何をするにもある程度の許容範囲なるものがあるんだと思う。
何かを記憶するにしても、少しの単語や数字ならすぐに記憶できても、長い文章や数字などはそう簡単に記憶できるわけではない。
そしてそれは注意といった要素でも一緒で、歩いている時に目に入ってくる情報や足で感じた情報など、全部に注意がいってしまえばそれこそ、常に周りをキョロキョロしておかないといけないし、落ち着くことなんてそうできない。
だから、今必要な情報などに注意を払い、ここでなら歩くことに注意が向けれた方が転倒するリスクかなり減らすことができるんだろうな。
でも、それをあえてできないような環境に陥ると、歩くことへの気をつけるべき要素が減り、普段の何気ない障害物や刺激に対して、反応性が極端に落ちるんだろうなって思う。
そう考えると歩くことって実は筋力やバランス能力などの身体的な機能だけでなく、こういった脳との関連性をみることも大事なんだと思うし、
転倒予防に関してはこういったことに対する配慮も十分必要になってくるんだと思う。
変化量は転倒群で有意に増大していた
歩行時間をみるだけで、簡易に転倒リスクを知れるのであれば、これはもう普段の臨床場面でも使わない手はないだろう。
普段に比べ歩くペースが遅くなったや、急に話かけると止まっちゃうといったことって高齢者になれば結構当たり前にみられる光景かもしれないが、
実はそこに転倒に関するリスクが潜んでいるってことはしっかり把握しておく必要がありそうだよね。
これなら、高齢者ご自身にも最近歩くペース落ちていないかとか、歩きながらしゃべる時にちょっと立ち止まることないって聞いて、
ある程度高齢者の方々にも自覚をしてもられると、少しは転倒を防ぐことに繋がるんじゃないかなって思う。
おそらく、転倒したことのない高齢者ってまさか自分がこけるとはなんて、恐らく微塵も感じてないだろうからな。
そうやって、自分を客観的にみて、少し気を付けようって思ってくれるほうが、それこそ歩きながら何かするっていう無茶も減るから良いんじゃないかなって思う。
逆に、我々のようにリハビリ分野に関わるものとしては、こういったフリートークしながらの散歩ってあながち、悪いことではないのかなって思う(すべてが良いわけではないが)。
まとめ
今まで、転倒予防の要因として、身体的な機能でのことを中心にこのブログではあげてきたつもりだが、実は脳も影響が大きいってことを考えると、
ますます転倒予防に対する取り組みってもっともっと可能性を秘めているんじゃないかなって思う。
こけないために必要なことは力をつけることってのは今はもう通じなくて、どうすれば転倒を防げるか、それにはその人個人をしっかり評価し、
その人にあったオーダーメイドの転倒予防が必要になるんだろうな。
それには、そこをしっかり評価できる我々セラピストの力が絶対必要にると思うし、高齢者の方々自身の自覚も必要になってくるはず。
すべての転倒を防ぐことはできなくても、防げる転倒はまだまだ沢山あります。
そういったことを地道にコツコツ防いでいくことも大事ですね。
本日はここまで~
作者:理学療法士 中上博之