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加齢による下肢筋力調節能力の変化
医療系論文を理学療法士10年目の私が口語訳して紹介します。
カテゴリー
転倒予防,下肢筋力,加齢,
出典
日本臨床バイオメカニクス学会誌 29:113-117,2008
論文を30秒にまとめると
口語訳タイトル
筋力による需要と供給のバランスとは?
目的
必要な力の発揮力と実際の力の発揮力では、加齢による影響を受けるのか
対象
健常な若者15人(男性9名、女性6名、平均年齢20歳前後)と健常な高齢者15名(男性9名、女性6名、平均年齢70歳前後)
方法
- 利き足の持続的な膝伸展筋力を測定
- 必要な筋出力量を設定し、それに合わせて力を入れる
- 計3回実施し、必要な筋出力量と実際に発揮した筋出力量を統計処理する
結果
- 若者は要求された値と実際の出力した値の誤差が少なかった
- 高齢者では要求された値と実際の出力した値の誤差が大きかった
- 高齢者において要求値が高くなればなるほど誤差が大きくなった
著者の考え
- 筋調整能力は発揮する筋出力が大きくなればなるほど誤差がでやすいため、結果的に筋出力を下げる必要があり、それが歩行などの動作に影響を及ぼす可能性がある
私の考え
若者は要求された値と実際の出力した値の誤差が少なかった
若者は、自分の力のコントロールが比較的できるということは当たり前で、これがある程度できないと、それこそただの運動音痴やドンくさい人ってレッテル貼られるよね。
でも、考えてほしいのは、何もすごく正確にこれができる訳じゃないということなんだよね。
想像して欲しいのだが、目の前にあるペットボトル(中身が満タンにはいっていると思って)を持った時に、実は中身がなく思わず軽ってなったことない?
あれって要求される力の発揮と、実際にペットボトルを持った時の力の発揮の差があるってことで、そういう時って思わず手のコントロールができなくなるよね。
つまり、その筋の出力のコントロールを行っているのって我々の頭の中が勝手に過去の記憶とか運動のイメージとかを基に作り出したいわば勘を頼ったことになると思うんだよね。
そして、それに対して若者は瞬時に修正する能力があるから、結果的にペットボトルを落とすことなく、ジュースを飲むことができるんだよね。
これは他にも、階段を降りている時に、もう降り終わったと思った時に実はもう一段あったってなった時、思わず足がカクッと抜ける感じがするよね。
あれでこける人もいると思うけど、20歳前後の若者ならまずこけることは少ないだろう。
でも、これが高齢者ってなると話は変わってくるよね。そういったことに修正がかけれなくて、たぶんこけてしまうと思うんだよね。
こういうことって実は転倒原因においても多いんじゃないかなって思うわけ。じゃあ、実際高齢者では何が起きているかというと、
高齢者では要求された値と実際の出力した値の誤差が大きかった
ほらね、やっぱり高齢者ではその誤差が若者より大きくなるんだよね。
つまり要求された力の発揮に対して、実際必要だと思った力の発揮のコントロールに初めっから誤差が生じるということだよね。
若者は誤差があった時に修正が必要なのに対して、高齢者はすでに誤差ができているわけだから、それを修正することも自ずと難しくなるのは想像できる。
そうなれば、恐らく高齢者の頭の中ではより誤差が生まれない様に力のコントロールを最小限にとどめようとするのだろう。
だから、歩くスピードが遅くなったり、動きが自然と小さくなり、どんどん動けなくなるという負のスパイラルに陥るんだろうな。
高齢者において要求値が高くなればなるほど誤差が大きくなった
そして、より力を要求すればするほど、高齢者はそれを達成しようとするため頑張るから余計に細かな筋肉の動きの調整ができなくなるんだろう。
リハビリ場面でもよく高齢者の方に力いれてって足のキッキング運動をさせると一回目はそんなに力が入ってなくて、もう少し力入れてっていうと、手加減なしにおもいっきり蹴ってくる場面ってない?
思わずこっちの支えている手がもっていかれそうになるみたいな。
そのように一つ一つの運動に何か精細を欠くっていうか、動きが大雑把になるっていうか、でもそれは年をとると当たり前に起こる現象で、それをコントロールすることを実はリハビリ場面でもやっていく必要があるんだろうなって感じる。
じゃあどうすればそれをコントロールできるかっていうと、本人がこれは力が入りすぎてるとか、力がはいっていないとか、その細かな調整を感じながらやってもらうのが一番の近道だと思う。
そういったものを客観的に判断する上でも、今回のデータをとる方法なんかをもっと簡易に表現できるツールがあるといいなって思うんだよね。
やっぱりリハビリもそうなんだけど、こちらが提供するものではなく(リハビリをされるってあまり言わないもんね)、本人がするもの(リハビリをするって表現するもんな)だからな。
まとめ
こういったことを考えると、年をとることで自分が思っていた以上に体のコントロールが難しくなることがあるということ。
そして、それを常に頭に入れながら、日々の生活をしていかないと、こけると思っていなかったのにうっかりこけてしまったみたいなことになりかねない気がするな。
現に、転倒した人って自分がこけるとは思ってもいない人が大半だもんな。
転倒予防の一番の予防って実は自分の体の状態を常にチェックしながら、どういった危険が日常の中で潜んでいるのか、これを把握することが大事なんだと思うな。
そのためのワンコイン転倒予防として、気軽に転倒チェックを健診する仕組みを作っていけたら良いなって思いながら、この文献の締めにします。
本日はここまで~
作者:理学療法士 中上 博之