Effect of exercise and cognitive training on falls and fall-related factors in older adults with mild cognitive impairment: A systematic review
軽度認知症を呈する高齢者における運動と認知機能訓練が転倒および関連因子に与える影響:システマティックレビュー
医療系論文を理学療法士10年目の私が口語訳して紹介します。
カテゴリー
転倒予防、軽度認知症、高齢者
出典
Lipardo DS, et al. Arch Phys Med Rehabil. 2017.
論文を30秒にまとめると
口語訳タイトル
軽いもの忘れには頭と体を使うことが重要
目的
軽度認知症を持った地域在住高齢者の転倒因子への運動および認知訓練の効果を知る
対象
1697名の高齢者(74歳前後)
方法
- 転倒群に対する運動・認知課題、その2つの組み合わせをバランス・下肢筋力・歩行・認知機能をもとに比較する
結果
- 頭の訓練(認知課題)だけではもの忘れの改善に大きく影響しなかった
- 頭と体(運動)の両方の組み合わせによりバランス能力が改善した
著者の考え
- このレビューにより頭と体を同時に鍛えることが認知症者への転倒に関する因子(歩行速度やバランス能力、認知機能など)の改善につながることが示唆された
私の考え
頭の訓練だけでは認知症の改善に大きく影響しなかった
物忘れ(いわゆる認知症)とは、加齢により今まで覚えていた「昔の記憶」や、さっきまで自分が何をしていたかというような「その場の記憶」など、様々な記憶としての情報を頭の中に留めておくことができず、そして、それを自由に引き出すことができない状態である。
よく脳が年齢によって使えなくなったなんて言い方をすると思うんだけど、なんだか難しい感じだなって思った方に少しわかりやすく説明すると、図書館なんかをイメージしてもらいたい。
図書館(頭の中)っていっぱい本がある中から自分が読みたいものを探すよね。
その時ってただやみくもにみんなは本を探すかな?できる人は検索機を使ったり、どういったジャンルの本なのか、著者は誰なのか、どこの出版社なのかといった様々な情報の中から、この辺にあるかなって本を探すよね。
これが物忘れがない状態だとすると、物忘れの人は、図書館にある本を探すのになんの手がかりもなく探している状態か、わからないから立ち往生している状態だとも捉えられる。
そして認知訓練をするというのはこの探し方(検索機の使い方や関連本が置いてある区画を知る)をもう一度教えてもらうということであって、実際に探し出す人が動かなければ意味がないということだ。
つまり、これはただ単に頭の訓練をしたから頭が良くなり、物忘れが改善するという発想ではないということにつなげて考えてもらいたい。
本を探し出し、それを読むには、探す人が早く必要な本の場所にたどり着くことが重要になる。
そうなると、ただ単に頭が良い・悪いの問題ではないのだから、ではどうすればこの探す人が早く動くことができるのかを考える必要がある。
それには頭の中でどのように情報の行き来が行われているかを知っておく必要があり、それを担っているのが脳の中にある神経細胞やそれをつなぐ神経回路だということだ。
そしてこの情報の行き来をするために運動をするということが、実は神経細胞を活性化し、神経回路を構築するのに非常に重要な役割を示すということになる。
それに関しては次に記載していくこととする。
頭と体(運動)の両方の組み合わせによりバランス能力が改善した
運動をすれば脳の中でも色んなことが活動して、活性化されるっていうのは今や当たり前に言われていることで、特にウォーキングなんかは物忘れ防止にぴったりみたいな本なんかもいっぱいでているよね。
じゃあ、運動最高、どんどん歩き回れ~ってすると、確かに体の機能はよくなるけども、頭を使うことにはそれほど大きくつながらない気がしない?
さっきの図書館で例えるなら、本を探す人が全力疾走で図書館を駆け回っても、目的とする本を探すやり方をしらなければ全く意味がないということ。
そう考えるなら頭も使いながら、運動をすることが一番効率が良いのもわかってくるんじゃないかな。
最近なんかは二重課題なんて言い方をするんだけど、要は〇〇しながら歩くってことが重要だよってこと。
ただ間違えてはいけないのが、歩きスマホなんかは目の情報がスマホに奪われちゃうからかえって転倒しやすくなるっていうのは理解しといてね。
イメージとしてはしゃべりながら歩くみたいな感じかな。昔の有名な雑誌にのった論文でもしゃべりかけられると止まる人って転倒リスクが高くなるなんて報告もあるぐらいだから、
こういった運動と認知訓練が同時でできると確実に転倒リスクが減ることが、この色んな情報をまとめた結果からもでているということはすごい重要なことだと思う。
まとめ
転倒に対してよく「筋力をつけなさい」って言われることが多い中、もはや筋力だけでは転倒は防げないってこと。
頭と体の両方をいかに使いながら、日々の転倒リスクと戦っていかないといけないのかが改めてこの論文から読み解けました。
今後ますます高齢者の方々が増えていき、どんどん健康寿命が低下している世の中、医療費削減なんかも国が声を大にして言っていることだからこそ、
こういった転倒予防に対して我々が知恵や知識を絞り出し、この先の寝たきり生活を予防し、みんなが元気でぴんぴんころりんできる社会を作っていくかが重要なことになってくると思う。
転倒しないためにできること、まだまだいっぱいあるし、それこそ運動と認知課題を組み合わせるなら、孫とおじいちゃん、おばあちゃんがしゃべりながら外の散歩や買い物に行くことなんて最高の転倒予防につながる運動手段だと思うわけ。
転倒予防に対してどういったことをしていかないといけないのか、今後もしっかり考えていきながら、このブログがその一助になればいいなって思ってこれからもどんどん情報発信していこう。
本日はここまで~
作者:理学療法士 中上博之